東京高等裁判所 昭和36年(う)1234号 判決
被告人 原徳太郎
〔抄 録〕
弁護人の論旨第三点について
原判決が判示第一の(四)において、被告人は遠藤周平等と共謀の上と判示し、遠藤周平のほかにも共謀者があるのか、あるとすればそれは誰であるのか判文上明らかでないことは所論のとおりである。しかし有罪判決において数人共謀に係る犯罪事実を判示するに当つては、当該事件の被告人となつていない共謀者については、一々その氏名又は人数を判示する必要はなく、共謀者の中の一人の氏名を記載し外数名と共謀したと判示しても差支えなく、只その犯罪が他人と共謀に係るものであることを示せば足りるのである。原判決挙示の対応証拠によれば、被告人が右犯罪について共謀した者は、本件で被告人となつていない遠藤周平及び高橋文治であることが明らかであるから、原判決の共謀に関する判示に所論のような違法はない。
同論旨第一点について
被告人の検察官に対する昭和三十六年一月二十一日附供述調書中原判決判示第一の(四)の1の事実に関する自白は、被告人が逮捕拘禁されて以来六十五日目の自白であることは記録に徴し所論のとおりである。しかし本件事案の内容は複雑多岐に亘り取調を要する関係者も多数で、公訴の提起は昭和三十五年十二月十日以降昭和三十六年二月十四日迄の間に八回に及んでいるのであつて、検察官が被疑者その他関係者の取調に相当長期間を要したことは已むを得ないものと考えられるのみならず、記録に現われた取調の経過に徴しても被告人の右自白と拘禁との間に因果関係があるものとは認め難く、これを以て憲法第三十八条第二項刑事訴訟法第三百十九条第一項にいう不当に長く拘禁された後の自白ということはできない。また遠藤周平の検察官に対する供述調書は、これを関係証拠と対照しその供述内容を比較検討すれば、所論のように検察官の取調に迎合してした不任意のものとは到底認められない。そして原判決挙示の対応証拠を綜合すると、原判決判示第一の(四)の1の事実は優にこれを認めることができる。即ちこれによると、被告人は遠藤周平等と共謀の上木村候補の選挙運動者である角尾家史に対し、木村のため投票並びに投票取纒め等の選挙運動を依頼し、その報酬等として現金百万円を供与したことが明らかである。尤も右百万円は木村候補のための投票並びに投票取纒め等の選挙運動の報酬だけでなく、木村を自民党の公認として貰うための運動費及び角尾家史に木村の選挙事務長を引受けて貰うための諸雑費等をも含めた趣旨であつたことは窺われるが、右投票並びに投票取纒めの選挙運動の報酬とその他の費用とを截然区別することなく不可分的に一括して供与したことが明らかであるからその全部について不法性を帯びるものというべく、従つて原判決に所論のような事実の誤認乃至法令適用の誤はなく、また右百万円の授受について被告人と角尾家史とが投票買収を共謀した事実は認められないから、右共謀を前提とする所論は理由がない。
(渡辺辰 司波 小林信)
注 本件は量刑不当で破棄